映画「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」(1977年)の原作者として知られる、米国著名作家でジャーナリストのピート・ハミルさん。2020年8月5日に85年の生涯を終えてから、今年で4年が経過します。ピートさんの妻で作家として活躍する青木冨貴子さんは、最愛の夫との大切な記憶を、手記『アローン・アゲイン:最愛の夫ピート・ハミルをなくして』に書き留めました。「ふたたび一人」で生きていく青木さんが、心の筆で綴ったエピソードの一部をお届けします。
何を見てもあなたを思い出す
2020年8月に夫がいなくなってから2年を過ぎる頃まで、何を見ても彼を思い出す日々が続いた。
スーパーマーケットで緑のぶどうを見れば、それを毎日食べていた姿が目に浮かんだし、ダイエット・ペプシのボトルを見れば、仕事机の上にいつも置かれていた氷いっぱいの大きなグラスを思った。
わたしはそういう“もの”を見ないように試みたが、思いがけず目に入ることもある。
まして場所とか建物などは避けきれるものではない。そのなかでもいちばん困るのがブルックリン・ブリッジだった。
わたしたちが暮らしたブルックリンとマンハッタンを結ぶ橋で、イーストリバーの上にかかっている。夫はこの橋が大好きだった。
「この橋はいちばん古くていちばんきれいなんだ!」
ひとりで渡るようになっても、嬉しそうな彼の声が聞こえてくるようだ。
この橋はアメリカでもっとも古い吊り橋の一つだし、鋼鉄のワイヤーを使った世界初の橋なんだよ――。