尚弥が19歳の時に開かれた家族会議

尚がカザフスタンで開かれたアジア選手権で「あと一勝」が叶わずロンドン五輪出場が消えた19歳のとき、進路について家族会議を開きました。

『努力は天才に勝る!』 (著:井上真吾/講談社現代新書)

「大学に行ってもう一度、五輪を目指すか、プロに行くか」。

尚はもう決めていたのでしょう。間髪いれずに、

「プロに行くよ」。

と答えました。表情を見ても決意は堅そうです。揺らぐことはなさそうでした。

自分は尚にこう続けました。

「プロでやっていく以上、世界チャンピオンを目指す覚悟はあるか」。

尚は大きく頷きました。

この返答に対して、長女の晴香は「尚がプロか。また応援するからね」と弟を支えます。

末っ子の拓は中学に上がってすぐに、自分に向かって、

「高校に進学するのをやめてプロになる」。

と申し出てきました。一瞬、いいよ、と頷きそうになったのですが、結論を急がずに、尚に聞いてみたら、

「拓は勉強が嫌なだけだよ」と真相がわかり、拓をリビングに呼びつけました。

「高校まではちゃんと卒業しないとダメよ」。

「読み書きができないと恥をかくよ。プロになってサインするときにファンの名前が漢字で書けないと恥ずかしいだろ」。

「二つの道があったら、困難な方を選べ」。

「父さんは今になって学生時代にもっとちゃんと勉強しておけば、と痛感している」。

家族総出の突っ込みが拓を襲います。拓は家族のダメ出しに敗れ、しょげかえっています。