新型コロナウイルスが令和5年5月8日に「5類感染症」に位置づけられてから、1年が経過しました。令和6年3月末には治療薬や入院の公費支援が終了し、猛威をふるったコロナ禍から徐々に日常を取り戻しつつあります。そのようななか、JT生命誌研究館名誉館長の中村桂子さんは「ウイルスとは何かを考えることが、これからの生き方にとって大事」と話します。今回は、生命科学研究の草分け的存在である中村さんが、ウイルスとの向き合い方をまとめた著書『ウイルスは「動く遺伝子」』より、一部ご紹介します。
ウイルスとどう付き合うか
新型コロナウイルスという言葉が毎日のニュースに登場するようになった2020年の初め頃は、多くの方がこれを撲滅するにはどうしたらいいかと話していました。
現代社会は、なんでもマルかバツか答えを出すことを求める傾向があり、こんなに人間を悩ませる悪いやつにはバツをつけて撲滅するほかないと思ったのでしょう。
けれども相手は、なかなか手強く、感染者数が少し収まってきたかと思うと、変異株が登場してまた拡散するなど、一筋縄ではいかないことが見えてきました。
そこでウイルスとの共存という言葉が聞かれるようになりました。