写真提供◎AC
貧困家庭に生まれ、いじめや不登校を経験しながらも奨学金で高校、大学に進学、上京して書くという仕事についたヒオカさん。現在もアルバイトを続けながら、「無いものにされる痛みに想像力を」をモットーにライターとして活動をしている。ヒオカさんの父は定職に就くことも、人と関係を築くこともできなかったそうで、苦しんでいる姿を見るたび、胸が痛かったという。第67回は「普通になりたくても、なれなかった」です。

普通って、なんなんだろう

NHKドラマ『燕は戻ってこない』を観ていたら、他者に恋愛感情を抱いたり、性的に惹かれることがないという2人が偶然出会う場面があった。お互い別のグループで飲んでいたが、偶然会話が聞こえて2人は対話することになった。その会話の中に、こんなセリフが出てきた。

「若い頃は自分が変わってるんだと思ってました。でも、無理に好きになろうとすると、どうしようもなく気分が悪くなるんです。で、もう自分の感情はありのまま。放っておくことにした。こういう世の中からはぐれたような気分は絵を描くのにもちょうどいいので。これだけ人間がいるんですよ。性も欲望も、いろんな形があって当たり前なんです」

このセリフは、春画作家の女性のものだ。このセリフを聞いたとき、胸に積もっていたいろんな感情が溢れ出して、気が付いたら泣いていた。

普通って、なんなんだろう。
最近、そんなことをよく考える。

「わたし、とにかくいろんなことが普通から外れてて。普通が欲しかったんです。でも、どうやっても、手に入らなそうで」

私がそう友人に相談したとき、友人は言った。

「普通はこうってさ、思い込まされてるだけなんじゃないかな」

これを聞いたとき、顔をパチンとはたかれたような衝撃を受けた。先ほどの春画作家のセリフのように、きっと、普通は人の数だけあるはずなのだ。