(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公開している2020年の「介護保険事業状況報告」によると、施設に入所している<寝たきり>の人は300万人以上もいるそう。そのようななか、高齢者のリハビリを20年以上続けてきた理学療法士の上村理絵さんは「老化することを最後まであきらめなければ、回避できる寝たきりもたくさんある」と話します。そこで今回は、上村さんの著書『こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方』から、老化に負けない元気な体を手に入れる方法を一部ご紹介します。

家族の深すぎる愛情が、体を老化させる

「人が環境をつくり、環境が人をつくる」とよくいわれていますが、それをあらためて実感した出来事がありました。

「今度、娘と同居することになったのよ」

松崎さん(仮名)がうれしそうに私に話しかけてくれたのは、長かった残暑がようやく落ち着いた初秋のころだったように記憶しています。

83歳になる松崎さんは、数年前に病気を患ってから、足腰がおぼつかなくなってきて、私たちのリハビリ施設に通うようになったのです。

足腰が弱っているので、テキパキとはいきませんが、家事もこなすことができていたので、旦那さんが亡くなられた後も1人で暮らしていました。

少し前に病気で体調を崩してしまった松崎さんを心配した娘さんが、熱心に「同居したい」と持ち掛けてくれたそうです。

娘さんとは仲がよいそうで、彼女自身も同居を心待ちにしているようでした。

冬の訪れを感じ始めたころ、それまでと同じようにリハビリを続けていたのですが、彼女の身体機能があまり改善しなくなりました。

もしやと思い、「最近どのように過ごされていますか?」と質問したところ、「娘が身の回りのことを、すべてやってくれているんです」という答えが返ってきました。

松崎さんの身体機能の改善が見られない原因は予想していた通りでした。

その原因とは、娘さんの深すぎる愛情です。

これまで育ててくれた感謝の気持ちが強いからか、「体が弱っているのなら、私が助けてあげる」という思いで、身の回りの世話を焼きすぎたのです。