その後、特に何もなく時間が過ぎましたが、ある日、仕事でヨーロッパを訪れていた篠田から手紙が届いて。向こうで高熱を出したらしく、書き殴ったような字だったのです。いつもは理路整然としているので、その乱れた手紙になぜか心を打たれたのね。
しかも、帰国後に素敵なハンドバッグをお土産にくれたんです。もしかしたら、私の言葉が頭のどこかにこびりついていたのかもしれませんが(笑)。それがきっかけで篠田との交際が始まりました。
結婚を決めたのは、「女優をやめてくれ」と言われなかったからかもしれません。当時、女優は結婚したら引退して家庭に入るのが当たり前でしたが、篠田は「結婚生活を肥やしに、女優としてもっと大きくなってほしい」と言ってくれました。そういう人でなければ、きっと私も結婚を決意しなかったでしょう。
篠田は、初期の作品では自立した女性を多く描いています。そういう部分でもフィーリングが合ったのかもしれません。彼が描く女性を演じるのは、気持ちがいいし楽しかったですよ。
ところが当時、私は忙しい時期で、先々の作品を何本も抱えている状態。松竹の重役さんが毎日うちへ訪ねてきて、「なぜ一人の男の所有物になるのだ」と翻意を迫るのです。株主さんまで説得に来たので、母は驚いていました。
でも、あまりに激しく反対されるものだから、かえって「結婚してみよう」と思っちゃったのね。(笑)