ジェリーとダイアンはNYの同じ地区の幼なじみの同い年だった。二十一歳のときに結婚して、今年は九十二歳、それまでずっと夫婦だったのである。
ふたりとも超人のように元気だったが、じょじょに衰えはやってきて、ダイアンは去年脳梗塞をやったし、ジェリーは入退院をくり返していた。
脳梗塞以来、よくしゃべるダイアンは言葉が出てこなくなった。その頃あたしはちょうどカリフォルニアに一時帰って、それを間近に見たのである。ダイアンはほんとにもどかしげだった。隣でジェリーが、ダイアンの言おうとしている言葉を察知して口に出した。ダイアンはそうそうと言いたそうにうなずいたり、先に言われてしまうのをうるさがったりした。これも夫婦のかたちだなあと思って見ていたものだ。
ジェリーにはもともと、ダイアンがしゃべっていると、無意識なんだろうが、その声にかぶせて同じことを話し始める癖があった。そして他の誰にも負けないほどよくしゃべるダイアンなのに、ジェリーがしゃべり始めると、すっと引いた。それがいつも不思議だった。「育ったのがそういう時代だったのだ」とダイアンが無念そうに、しかたないというように言ったことがある。