(撮影:霜越春樹)
テレビの黎明期からお茶の間の人気者として親しまれてきた大村崑さん。90代になった今も、毎日元気ハツラツだと言います。波瀾の人生を「笑い」で明るく乗り切ってきた、大村さんの原点とは
(構成:野田敦子 撮影:霜越春樹)

人の笑う顔が好きだから

5月に映画の舞台挨拶でスクワットを披露したんです。そしたら、共演者の橋爪功さんが僕を見て「怪物だよ」とあきれ顔でポツリ。彼のひと言に会場がドッと沸いてね。翌日には「大村崑の体力に仰天。怪物だ!」なんてネットニュースにもなりました。橋爪さんの絶妙な言葉選びのおかげで、僕のスクワットが映画の宣伝に一役買ったというわけです。

その「怪物」はただ今、92歳。ありがたいことに映画や講演、新曲のレコーディングなどオファーを多くいただき、「日本最高齢の喜劇役者」としてがんばっています。

時々、「なぜ、喜劇にこだわるんですか」と聞かれますが、答えはいたってシンプル。人の笑う顔が好きだからです。どんな人も、笑うとええ顔になるんですよ。

さっきまで仏頂面だった人が、笑った途端にええ顔になって身を乗り出し、舞台や映画を夢中になって見はじめる。「ああ、笑ってくれてはる。幸せやなあ」と、心の底から思います。

映画やドラマを「料理」とするなら、喜劇役者は「砂糖」です。すき焼きも醤油だけじゃおいしくならないでしょ。砂糖の甘みとコクが加わって初めて、何とも言えないまろやかさが出るんです。

僕たち喜劇役者の役割も同じ。台本という素材を〈笑い〉で味つけして、おいしい料理に仕上げるというわけです。僕のこと「さとうさん」と呼んでもいいですよ。(笑)