沈黙した病室、花火の音

私は外カーテンを閉じ、ベッドサイドの椅子に座った。

沈黙した部屋に花火の音だけが聞こえていた。

『風の中に立て ―伊集院静のことば― 大人の流儀名言集』(著:伊集院静/講談社)

―早く終ってくれないか。

その時、私の脳裡に花火を見上げて、嬉しそうに笑っている若い男女の姿など想像もできなかった。

圧倒的な数の花火の見物客。

彼等にとってその夏は忘れ得ぬしあわせのメモリーかもしれなかったろう。

しかしそのすぐそばで、沈黙している男女が存在するのを知る人はいない。

それが世の中というものである。