こだわらない、うじうじしない

今振り返って思うのは、暖簾を守り続けるためには、伝統を踏襲するだけでなく、新しい時代に応じることも大切だということです。

私は「もの」は変えなかった。今に至るまで、材料や味、製法は伝統を守り続けています。だってそれが塩瀬の「価値」ですから。

でも売り方や売る場所、そしてお菓子のデザインは、時代に合わせて変えてきたの。古いのはいいことだけど、古ぼけちゃダメ。そのためには、時代時代の生き方を感じて、勉強して、取り入れることなんですよ、そうすれば続いていくの。

そりゃあ、簡単なことではありません。大変でしたよ、ここまでくるのは。私が社長を務めた20年の間には、「小売り」を始めただけでなく、さまざまなチャレンジがありました。

中国の杭州に何度も自ら足を運び、初代の林浄因さんの碑を建てたこと。古い実家のあったここ築地明石町に本社ビルを建てたこと。新木場に土地を買って、5階建ての立派な工場も建てました。

少し前までは工場やお店には毎日顔を出して、社員を励ましたり、商品の味をチェックしたり。もう、ハッチャキだったわね。(笑)

もちろん一人でできたはずもなく、いろいろな方に助けていただきました。だからこそ周囲への感謝の念や身近な人への愛情は、きちんと表すことが大切だと思っています。手間暇を惜しまず、すべきことはきちんとすることですよ。

こういうお話をするときあふれ出てくるのは、私と塩瀬を支え続けてくれた夫への思いです。2004年に亡くなった彼に直接伝えることはできないけれども、「パパあってこその塩瀬です」と伝え続けています。