お店は私たちの息子が35代当主としてやっています。息子の代になってからは、私はいっさい口出ししていません。すべては彼の責任でやっていることであり、仮に不具合がおきたとしても、それはそれでいいじゃないですか。もうスパンとしたものですよ。

こだわらない、うじうじしない。それは私の生き方でもあります。

今は毎日のんびりと暮らしています。毎朝お寝坊して、朝昼兼用のお食事。買い物は息子の妻と娘にお願いしていますが、自分の食べたいものを自分で作って食べています。100歳のおばあさんなので、油ものの食事は避けて、お魚や鶏肉中心。

お野菜はなんでもいただきますが、実は甘い物はめったに食べない(笑)。少食になっちゃってあんまり食べられないのよ。

午後は家でのんびり書き物をして過ごします。私は12歳から和歌を詠んでいて、その時々に心にパッと浮かんだものを書き留めているのです。

利をはなれ 心のすべて 無なる時 有を生ずる 世とぞ知りたり

これは、ずいぶん前に当主としてふと不安を感じたときに詠んだ歌です。目先の利に惑わされてはいけない。握ろうとすると逃げる。何事もこだわりすぎない、ということでしょうか。

人生は常ならぬもの。浮き沈みは必ずあります。沈んでいるときは、かつての夢にこだわらない。今はそういう時期だと受け止めて、無理をせず、でも絶対にやめないで、それなりでいいからとにかく続ける。

私は「やめない」と決め、沈んでも歩みを止めなかった。こだわらないのが一番。それが100歳の私の人生訓かしらね。

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