息子のためにとATMへ直行

電話の声に従い、私は銀行に向かった。何度も「他人に知られたくない。急いで」と言うので、《振り込め詐欺に注意!》と警告するポスターもスルーしてATMへ直行。

息子の口座に振り込もうとしたが、「時間がないから直接、弁護士の口座に振り込んでほしい」と言われた。振り込み手続きがうまくできないので銀行の係の人を呼ぶと、電話の向こうで「やめて! みっともないから大きな声で話さないで」と声を荒らげる。

冷静になった今なら、よく言うわ、と思うのだが、あのときは矛盾だらけの話に気づけなかった。

お金を振り込むと、その場でまた電話がかかってきた。

「銀行は振り込め詐欺に慎重になっていて確認に時間をかけるので、振り込みが途中で止まっている。このままだと示談がパーになって多額の請求をされそうだ。あと50万円振り込んでほしい」。

あのとき、「騙されているんじゃないの」と聞いた私の愚かさよ。相手は「あなたを騙しているんですよ」と薄ら笑いをしていただろう。