騙されていたのは、息子ではなく私

追加の50万円を振り込むと、電話がぴたっと止まった。かけ直しても、「お客様のご都合でおつなぎできません」というメッセージが流れる。家に帰って次男にメールを送ると、即、「どうしたの?」と電話がかかってきた。

「それは振り込め詐欺だね。え! 150万円払ったの? すぐ警察に連絡して」という次男の声を聞き、私は(ああ、息子はあんなことやってなかったんだ)と安堵し、夫と警察署に行って被害届を出した。

翌日は休日で、長男一家と次男が我が家に集まることになっていた。食事を終えて雑談が始まると、私は「振り込め詐欺で150万円の被害に遭いました」と告白した。長男もそのお嫁さんも驚くばかり。

カードローンのことを話すと、長男は「お金は口座に入れておくから。カードはすぐに処分してね」と言い、次男は50万円を渡してくれた。

息子たちは相談しながら、私たちが二度と被害に遭わないように電話の設定変更などをして、「気にしなくていいんだよ」と言って帰っていった。

それから数日、身体は宙に浮いた感じで食欲もゼロ。65歳を過ぎると、こうも頭が働かなくなるの? 非常事態に対応できなかったら意味ないじゃないの、と思いもしたが、少しずつ自分を取り戻し、息子たちが一言も非難せず用意してくれたお金を返すために働こうと決めた。

幸い身体はいたって健康だから、どんな仕事でも働こうと思う。ずっと専業主婦だったので、お金を稼ぐ厳しさにこれから初めて直面するのは覚悟している。

この歳になって、なんで詐欺師のために緊張感を持たなければならないのかと思うと、やり場のない怒りがこみあげる。

しかし、普通に生活して家庭を守ってきた主婦がよき人生であったと幕を下ろすためには、責任を果たすことが必要だ。下劣な詐欺師に、心意気だけは負けてはいられない。