妻 2人とも身体を動かすことが好きなので、地区の運動会にも一緒に出てリレーに参加したり。
夫 けっこう、いい成績をとっていたね、昔の話だけど。それから、ほら、あなたは山ガールじゃない。
妻 そうね。きっかけはお義母さん。だから、あなたと結婚していなかったら、山とは出会わなかったかもしれない。お義母さんは趣味でずっとろうけつ染めをやっていて、大きな作品も作ってらした。64歳の誕生日に、展覧会に出す作品を仕上げると、ほっとしたのかそこで倒れ、そのまま逝ってしまって。その時の作品の題が「穂高」……。
お義母さんはいったいどこから穂高岳を描いたのかな、と気になって。上高地に行ったことは聞いていたので、次女と上高地を訪れた。すると次女が、「お母さん、涸沢カールという素敵なところがあるから行ってみよう」と。上高地から6時間くらい歩くんですけど、ちょうど紅葉の季節で、本当にすばらしかった。
涸沢ヒュッテに泊まったら、翌朝、モルゲンロート(朝焼け)が峰々を見事に染め上げて。以来すっかり山にハマりました。
夫 そうだったね。
妻 山のことをまったく知らなかったので、登山専門のツアーに参加して。そのうち山の仲間も増えていき、どんどん楽しくなったの。
夫 百名山、制覇したんだよね。
妻 はい、おかげさまで。留守番させて、いろいろご迷惑をおかけしましたけど。
夫 いやいや、留守をもっけの幸いに……。
妻 ひょっとして、その間、内緒で煙草吸ってた?
夫 ノーコメント(笑)。僕も1、2回ついていったね。
妻 長野県の車山高原に一緒に行ったことがある。ちょうどニッコウキスゲの花盛りで、あなたが黄色い花の間をスタスタ歩いている光景を、はっきり覚えています。
夫 そんなふうに仕事から離れている時に、ふっと発想が湧くことがある。あるシンガーソングライターが、「どんな時にメロディが浮かぶんですか?」という問いに、「ボーッとしている時」と答えていた。研究開発も、そのパターンが多いね。だから、家族となにげなく過ごす時間はすごく大事。