あたしはおばちゃんが教えてくれるいろんな生活の知恵をたよりに、あの時代、社会主義の、崩壊直前の、モノの無い、厳しい時代を、まったくの外国人として生きた。
あたしは今、熊本で、毎年、庭に生るクワの実でジャムを作る。毎年よく生るから毎年作る。その時期はジャム屋になったみたいだ。今年もすっかり作り終えた時点で旅に出てきた。瓶をこつこつ集め、煮沸消毒して、ジャムを煮て、瓶に入れて蓋を閉める。
そのいちいちを、その昔おばちゃんから教わったことなんだと思いながら、手を動かしているのである。
おばちゃんの作った酢漬けのきのこやすぐりのコンポート。瓶の蓋がなかなか開かなくて、夫が「おばちゃん、どんな馬鹿力で」と言いながら格闘していたのを思い出す。
あたしもおばちゃんみたいに馬鹿力を発揮して、大の男が開けられないくらいに閉めようとするが、それが難しくて、どうしてもゆるくなる。人にあげる時は「なるはやで食べてね」と必ず言い添えているのだった。
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米国人の夫の看取り、20余年住んだカリフォルニアから熊本に拠点を移したあたしの新たな生活が始まった。
週1回上京し大学で教える日々は多忙を極め、愛用するのはコンビニとサイゼリヤ。自宅には愛犬と植物の鉢植え多数。そこへ猫二匹までもが加わって……。襲い来るのは台風にコロナ。老いゆく体は悲鳴をあげる。一人の暮らしの自由と寂寥、60代もいよいよ半ばの体感を、小気味よく直截に書き記す、これぞ女たちのための〈言葉の道しるべ〉。