クロッカスの花
久しぶりに訪ねた母の墓前の原っぱに、思いがけず、明るい紫と黄色のクロッカスがわたしを出迎えるように、ぽかっ、ぽかっと咲いていました。
それはもう70年以上前に亡くなった、遥かな母からのメッセージを伝えているようでした。
母は、グズで落ちこぼれのわたしに絵の才能があることを最初に認めて、褒めつづけてくれた人でした。
わたしは、病床にあったこの母のために、将来はきっとマンガ家になって母を喜ばせてあげるのだ、と幼い心に誓っていました。
「ちいちゃん、あきらめないで、投げ出さないで、心を込めて描きつづけなさい」と、クロッカスの花が、母からの伝言を発していました。
※本稿は、『こんにちは! ひとり暮らし』(興陽館)の一部を再編集したものです。
『こんにちは! ひとり暮らし』(著:みつはしちかこ/興陽館)
83歳、今はいない家族や友人を思い出しながらひとり暮らし。
『小さな恋のものがたり』『ハーイあっこです』の著者が、日々の暮らしについて書いた最新刊エッセイ。