(写真提供:Photo AC)
60年以上愛される『小さな恋のものがたり』や、明るくにぎやかなファミリー漫画『ハーイあっこです』など、今も多くのファンを魅了する漫画家・みつはしちかこさん。83歳になり、家族のことを思い出しながら、ひとり暮らしを楽しんでいます。今回は、みつはしさんの新著『こんにちは! ひとり暮らし』から、心あたたまるエッセイの一部をお届けします。

一番不安な季節

春の訪れを待つ季節、木々はまだ少し寒そうだけれど、目をこらすと、とがっていた小枝の先々が丸みを帯び、乾いていた幹が艶めいている。

この、奥のほうでなにかがうごめいているような気配がする季節が、わたしは大好き。

でも、ここ何十年も、わたしにとって1年で一番不安な季節でもあったのです。

というのも、毎年5月に『小さな恋のものがたり』の単行本を出すことになっていたから。

制作に取りかかる前のこの時期は、いつも不安とあせりで、押しつぶされそうになるのです。