武士の世での『源氏物語』の扱い

公家社会で愛された『源氏物語』でしたが、時代は武士の世へと推移していきます。そうすると妙な動きが出てきます。

「光源氏とかいうヤツは恋愛にばかりうつつを抜かしておる。政治も軍事もないがしろではないか。女の尻を追いかけているだけの読み物を、どうしてありがたがるのか」というマッチョな感想が語られ、『源氏物語』の価値を貶める動きが台頭してくるのです。

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歌連歌ぬるきものぞという人の梓弓矢(あづさゆみや)を取りたるもなし

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文武両道の武将、三好長慶は「和歌や連歌などくだらない、と言う者に、いくさ上手がいたためしがない」と断じます。でも、教養のない成り上がりの戦国武将などは、コンプレックスもあるのでしょうけれど、風雅の道をリスペクトしようとしません。

そもそも文化の担い手であるはずの天皇からも、『源氏』批判(後光明天皇。正確には、『源氏』を愛好する朝廷批判)が生まれています。『源氏物語』を軟弱な書、無用の書と見なす考えは、実際に存在したのです。