紫式部本人の手による『源氏物語』原本は存在しない
ただし、藤原道長が書き記した日記『御堂関白記』には原本が残っていますが、『源氏物語』は、紫式部の手による原本が残っていません。
現存する『源氏物語』の本文は通常、ルーツによって2種類+アルファに分類されます。
具体的には(1)青表紙本系統(2)河内本系統(とアルファとして別本系統)です。
(1)の青表紙本は、鎌倉時代を生きた歌人、藤原定家によって作成された本です。
一方で(2)の河内本は、(1)とほぼ同時期に河内守源光行・親行父子によって作成された本です。なおアルファとなる別本群はそのいずれにも属さない本を指します。
私たちが読んでいる『源氏物語』は(1)になります。
といっても、青表紙本と河内本は、いずれも全54巻という形態で、巻順も同じ。専門家でなければ、差異に気づくことはまずありません。
そして(2)の作成者である源光行。彼を知る人も、たぶん専門家に限られます。
彼は清和源氏で河内守に任じられた人でした。では武士なのかというと、自ら弓矢を取って戦場の最前線に出る「武者」では、おそらくない。鎌倉幕府にも仕えているのですが、大江広元タイプの文官でした。
但し政所の別当という高い地位にありましたので、多くの荒くれ武者を配下として従えていたと推測できます。
彼は息子の親行とともに、当時バラバラになっていた『源氏物語』の写本を集め、研究して原典の復元に努め、河内本をまとめあげたのです。