「上級国民」という言葉が生まれ……

4月19日の昼頃、東京・東池袋で高齢ドライバーが起こした死傷事故はいまだ、その余波が続いている。東京メトロ有楽町線東池袋駅近くの都道で乗用車が暴走。ガードパイプに接触したり、赤信号を無視しながら、近所に住む松永真菜さん(31歳=当時)と長女の莉子ちゃん(3歳=同)が乗る自転車をはね、2人を死亡させたうえ、9人に重軽傷を負わせた。

運転していた旧通産省・工業技術院の飯塚幸三元院長(88歳)も事故により胸の骨を折り入院。警視庁は逃亡などの恐れがないとして、退院後も在宅のまま捜査を続けた。

当時87歳だった元院長は当初、「ブレーキをかけたが利かなかった。アクセルが戻らなかった」と供述。警視庁交通捜査課は車の機能検査を実施したが、異常は発見されない。すると「ブレーキとアクセルを踏み間違えた可能性もある」と供述を変えた。

最終的に同課は事故原因を「最初に接触事故を起こした際に、ブレーキをかけず、アクセルを踏んだ操作ミス」であると結論づけ、11月12日、飯塚元院長を自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の容疑で書類送検した。

真菜さんの夫は飯塚容疑者を厳罰に処するための署名活動を行い、9月15日までに集まった39万1136筆の署名を東京地検交通部に提出した。短期間にこれだけ多くの署名が集まった背景には、「権力に近い人間は、重大な死亡事故を起こしても逮捕されないのか」という怒りがあったはずだ。“上級国民”という言葉が生まれるなど、死亡事故と逮捕のあり方について多くの人が改めて考えさせられた事件だった。

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自らの鬱憤を、運転中の他者に向ける事件も目立った。発覚したのは8月15日。茨城県守谷市の常磐自動車道で同月10日、男が危険なあおり運転を繰り返し、20代男性の運転する車を停止させたうえ「殺すぞ」とすごんだ末に男性を殴って逃走していたことがわかった。さらに前月にも、静岡県内や愛知県内で同様の行為をしていたことが判明する。

のちに傷害の疑いで指名手配されたのは宮崎文夫(43歳)。乗っていた白の乗用車は、横浜市内のディーラーが修理の代車として貸していたものだった。しかし、返却期限が来ても返しに来なかったどころか「気に入ったので買うつもりだ」などと返却に応じず、行く先々で危険な運転を繰り返していたのである。

18日、宮崎容疑者は大阪で身柄を確保された。同乗しながら犯行の様子を撮影していた交際相手の女も同日逮捕されている。