年を重ねるほど、もっと明るくなりたい
グチと言えば、女性は年を重ねれば重ねるほどグチっぽくなる人と、若い頃よりも明るくなっていく人に分かれますよね。
10年前に亡くなった浅川マキさんの追悼ライブでご一緒してから、加藤登紀子さんと親しくなったんですけど、76歳とは思えないほど若々しくてとっても明るい。学生運動の指導者として知られた藤本敏夫さんと獄中結婚して3人の子を育てながら、歌を通じて反戦を訴え続けてきた彼女の人生は、平坦ではなかったはず。ですが、今の彼女から感じるのは、前向きさと明るさだけ。
72歳になった女優の木野花さんもそうですよ。木野さんとは小劇団時代からの長いつきあいですが、昔はどちらかと言えば淡々とした印象でした。それが、60代後半くらいからめちゃくちゃ明るくなって。
私は細かい性格だから無理かもしれないけれど、この先、70代、80代と年齢を重ねていった時、お二人のように、今よりももっと前向きに、明るい女性になっていくのが理想です。このところ、ペンで試し書きをする時など、無意識のうちに「ありがとう!」と書いています。自分とご縁があった仕事や人や、すべてに感謝して、この先の人生を歩んでいけたらいいですね。
山形から東京に出てきて50年以上経ちますが、自粛のために長い間家にいるというのは初めてのことです。孤独な自分と向き合っていると、芝居をやりたくて、日に3つもアルバイトを掛け持ちして戯曲を書いていた若い頃と重なります。
夢は大きいのにチャンスがなくて、やりたくてもやれない青春の日々。財布に300円しかなくて夕飯をあきらめ、名画座で朝方まで映画を観た日々。何も食べなくても映画と演劇でお腹がいっぱいになっていたあの頃。恋をして激しく抱き合い、時を忘れたあの日たち。
演劇は、人と人とが触れ合って生まれる芸術であり娯楽です。劇場の暗闇から想像の翼を広げて今まで生きて、生かされてきました。お客様たちの笑顔を観たくて芝居を作ってきました。客席に座るお客様のためだけに多くのスタッフキャストが奉仕する仕事。なんて贅沢な仕事なんでしょう。そしてそれに命を懸ける。
コロナが終息したら、生の舞台に飢えていたお客様たちがこぞって劇場に駆けつけてくださることでしょう。その日を夢見て、かつて苦悩しながら夢を掴もうとあがいていたあの頃のように、あきらめずにやれることから始めようと思っています。早く皆さんとお会いしたいです。皆さんの笑顔が見たいです。