紫式部の一家に想いを馳せて

ところが正月の能登の地震で上時国家住宅が被害を、時国家も9月の奥能登豪雨で大量の土砂が流入し、大きな被害が出ています。

私が恐れるのは、文化財の被害だけではなく、災害によって地域のつながり、文化財や文化を守ってきた人と人との結びつきが切れてしまうことです。人のつながりこそが何物にも替え難い、社会を維持していく基盤なのです。

しかし今回の震災・豪雨の被害は、その保全に厳しい現実を突きつけています。それは日常の回復がままならないということです。

支えてきた生活が成り立たなければ、文化は失われます。私が今回、輪島市・珠洲市・能登町に寄付をさせていただいたのは、ライフラインの復旧に少しでも助けになればと思ったからです。地域の文化を守るためには、まず生活基盤が重要です。だから、少しでも多くの文化財を、それを支えた文化とともに守る手助けをしたいと思ったのです。

(写真提供:AdobeStock)

今後どこで同じような災害が起こるのかはだれにもわかりません。しかしその時に、生活と文化を守ることがその地域の歴史を守ることでもあるのだ、という気持ちを少しでも共有できたらいいなと思います。

そろそろ年末のふるさと納税の締め切りの時期ですが、私は能登に再び納税させていただこうと思っています。皆様も北陸を旅した藤原為時や惟規ら、紫式部の一家に想いを馳せつつ、奥能登の物産をチョイスしていただけたら、と思う次第です。


女たちの平安後期―紫式部から源平までの200年』(著:榎村寛之/中公新書)

平安後期、天皇を超える絶対権力者として上皇が院制をしいた。また、院を支える中級貴族、源氏や平家などの軍事貴族、乳母たちも権力を持ちはじめ、権力の乱立が起こった。そして、院に権力を分けられた巨大な存在の女院が誕生する。彼女たちの莫大な財産は源平合戦の混乱のきっかけを作り、ついに武士の世へと時代が移って行く。紫式部が『源氏物語』の中で予言し、中宮彰子が行き着いた女院権力とは? 「女人入眼の日本国(政治の決定権は女にある)」とまで言わしめた、優雅でたくましい女性たちの謎が、いま明かされる。