終戦の日も芝居をしていた
初めて舞台に立ったのは、3歳の時でした。皆さんは「女歌舞伎」をご存じでしょうか。大歌舞伎とは逆に、女役者が中心なんです。宝塚少女歌劇団の歌舞伎版、といったところでしょうか。戦前は、たくさんの小さな劇団が全国の芝居小屋を巡業していて。テレビもない時代ですから、大変な人気でした。子役だと僕みたいな男の子もいたんですよ。
女座長・坂東勝治の一座には、おふくろと一緒に入りました。おふくろは若い頃に役者を目指していたらしく、憧れていたんでしょう。といっても彼女は裏方で、舞台には出ませんでした。
初舞台は、義太夫狂言『三勝半七(さんかつはんしち)』のお通という子どもの役。といっても3歳ですから、自分が何をしているかわかっちゃいません。
おばあさん役に抱かれて舞台へ登場し、「なんでおふくろじゃない人が僕を抱いてるんだろう」とその人の顔を見上げて。次に客席に視線を移したらお客様がシクシク泣いているものだから、「どうしてみんな泣いてるのかな」と驚いたのを覚えています。
ほかにも『義経千本桜』の安徳帝や『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』の千松(せんまつ)など、有名な演目の子役はだいたいやったと思います。
当たり役だったのは、12歳の時に演じた桃太郎。戦中に評判になった、桃太郎が軍服を着て活躍するアニメ映画が原作です。勇ましい話が受けたんですね、どこの劇場も満席。「桃太郎一座」って僕が恰好よくポーズを取ったポスターもあったのだけど、どこかへやっちゃって、惜しいことをしました。