3歳から女歌舞伎の子役として舞台に立ち、今年で芸歴91年となる市川寿猿さん。「奥方」と呼ぶ、2年前に亡くなった妻との思い出から、今後挑戦してみたい役まで、衰えない役者魂とその源泉を語る(構成=山田真理 撮影=岡本隆史)
高齢者住宅から駅まで毎日15分歩く
今年も暑い夏でしたけれど、7月、8月と歌舞伎座の舞台を無事に終えることができました。
7月の『裏表太閤記』では、耳の遠い老武士の役。実際、僕も耳が悪いのでぴったりです。敵の人数を聞かれたのに、「え? ああ、今年で94歳!」と答えると、お客さんが大きな拍手で喜んでくださって。すっかり年齢がバレているんですねえ。(笑)
昔は「役者に年はない」ということで、年齢を明かしてはダメと言われたものです。僕自身、感覚は40代のつもりでしたが、最近になって、「現役歌舞伎俳優では最高齢ですよ」と聞かされ、へーそう、僕もうそんなおじいさんなの? と。たまに体がえらいのはそのせいかなあって。
注目していただけるのはありがたいことです。先日は終演後に、「寿猿さんの舞台を観ると元気が出ます、見習いたいです」と声をかけられて。でもね、その時は幽霊役だったの。見習っていいのかなあ。(笑)