15歳で家族がバラバラに
母は、若くして私を産んだ。新卒で就職した職場で出会った父と、すぐに結婚してしまった。世間知らずの母にとってそれはあまりにも早かった。
父は、顔だけ良くて中身がとんでもないダメ男だった。同僚だった母を巻き込んで、顧客や会社を騙し、私がまだ小さい頃にクビになっていた。それからはあちこちで借金を作りギャンブルばかりする毎日。少し働くようになったかと思えばまた借金をして、引っ越しを何度も繰り返していた。
若かった母はそんな生活に耐えられるわけもなく、ある宗教に救いを求めるようになった。
宗教の戒律は厳しかった。誕生日も祝日も祝えない。校歌は歌えない。食事の前はどこであろうと神に祈りを捧げないといけない。学校帰りに集会で学び、土日は近所を訪問して普及活動をしないといけない。悪いことをしたらムチで叩かれた。
クリスマスが祝えないのは特に寂しかった。我が家には物心着く頃からクリスマスがなく、小学校で周りの子が話す噂を繋ぎ合わせることでクリスマスの全容を知った。サンタさんがプレゼントを持ってきてくれる。部屋にツリーを飾って、チキンやケーキを食べて、翌朝には望んだプレゼントが置かれている。なんだその羨ましいイベントは?
その季節になるといつも、学校からの帰り道であちこちの庭に飾られているイルミネーションに見とれながら、部屋の中にあるであろう“普通”の家庭のクリスマス風景に思いを馳せていた。私もみんなみたいにクリスマスケーキを食べたり、ツリーを飾ったり、サンタがどうやって煙突のない部屋にプレゼントを届けに来るのか妄想したりしたかった。クリスマスも、クリスマスイブも、毎年我が家にとってはただの普通の一日だった。
15歳の頃、とうとう家族がバラバラになることになった。学校から帰ってきた私に、母は「お母さんたち正式に離婚することになったから」とまるで夕飯のメニューを伝えるような口調で離婚の決定を告げた。
ぐわぁっ! っと胃の下から何かが込み上げてきて目の前が真っ黒になった。それを悟られないように「あ、そう」とこちらも夕飯のメニューを聞いたような反応をして、すぐさま2階の自分の部屋に逃げ込んだ。感情が動いていることがバレないように、そーっとドアを閉めた。でも内心はグチャグチャだった。
ろくでなしの父が作っためちゃくちゃな家族だったし、その父ももうとっくの昔から家にいなかったけれど、この世でたった4人の家族の形が正式に壊れてしまうことが悲しくて寂しくて怖くて不安でたまらなかった。