母の部屋で見つけたもの
なんで? どうして!?私は何も悪いことをしていないのに、どうしてこんなに辛い思いをしないといけないの!?
怒りと悲しみの感情が爆発した。その怒りの矛先が離婚を決断した母に向いてしまった。そして、15歳で持てる最大の文章力を注いで母への手紙を書いた。
「最悪の人生。産んでなんて頼んでない! 勝手に産むなら、もっと幸せにしてよ。こんな親の元に生まれるのなら、産まれたくなかった」
どういう文字を綴ったら私のこの怒りと悲しみが過不足なく伝わるだろうか? どう書いたら効果的に母を傷つけることができるだろう。何度も推敲を重ね、したためた。
書いただけで、実際に読ませるつもりはなかった。こんなことを書いたって離婚を考え直してくれるはずもない。誰にもいいことがない。ただ、これ以上ない酷い文章を書けたことで少し心がスッキリした。
破片が20枚以上になるほどビリビリに破いて、怒りと悲しみと一緒にゴミ箱に捨てた。それで終わりのつもりだった。
しかし後日、いつものようにGUCCIの香水を黙って借りようと入った母の部屋で、その手紙を見つけた。母は破られた破片を全部集め、セロハンテープで修復して、自分を傷つけるために入念にしたためられた手紙を読んだのだ。
鏡台の引き出しの中にあるそれを見た瞬間、内臓がみぞおちあたりから全てヒュッと下に抜け落ちたように感じた。足元がぐらぐらと揺れて立っていられなかった。あれだけ傷つけたいと思っていたのに、現実にあの文章を読んだ母がどれだけ傷ついたかと想像すると、途端に後悔の大波が押し寄せた。
私はその手紙を元の場所に戻すことしかできなかった。その日以来、香水を勝手に借りるのもやめた。部屋に勝手に入ったことも、鏡台の引き出しの中に捨てたはずの手紙を見つけたことも、言えるはずがなかった。何も見なかったことにした。