『一目千本』が大人気の本になった理由

吉原は、非常に品格を重んじる遊び場でした。位の高い花魁ともなると、会うまでに面倒な手順をいくつも踏みます。買うお客さん側にも、歌や書などを理解する高い教養を求められもしました。

吉原でしか通じないしきたりやマナーは数多く、それを守らないと遊べないシステムとなっていました。つまり、プライドの高い面倒くさい街だったわけです。悪い意味で「選ばれた」という意識が高かったといえます。そんな世界で高評価を得るとは大したものだったのです。

(写真提供:Photo AC)

意識高い系の遊女たちが『一目千本』を気に入った理由は、販売方法にもありました。実は『一目千本』は、店舗では売っていません。ましてや貸し出しもしていません。『一目千本』は遊郭の中でも、一流のお店だけに置かれていた本なのです。

しかも、お金を出したら買えるというものでもありませんでした。遊女たちが、これはと思った「一流の」馴染み客にだけ、帰りの際、お土産としてプレゼントしていたものなのです。

いわゆるプレミア本です。『一目千本』を持っているということは、吉原に一流の男として認められた証しということになります。マウントをとるのに、こんなに便利なものはなかったのです。この意味で『一目千本』に価値を感じるお客さんは非常に多くいました。

遊女を変わった方法で紹介した本に希少価値を持たせて流通させた重三郎の目論見は大当たり。『一目千本』はあっという間に大人気の本になったのです。