いつも4羽のカラスが集合している屋根だが、その日はパクと名づけた1羽きり…(写真:stock.adobe.com)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは長野県の60代の方からのお便り。息子も独立し、夫婦2人になった生活で幸せを感じる時間は――。

夫は外にいる動物によく名前をつける

昨年、長年勤めた会社を定年退職した。一人息子はとっくに家を出て社会人。一足先に退職していた夫との生活も2年目に入った。今もパートで半日働いてはいるけれど、現役の頃のようなせわしなさはない。

夕食時、食卓横の窓の外側を登り始めたのはいつものカエルだ。「あっ、ジローがきた」。夫は外にいる動物によく名前をつけるのだ。ジローは、外が暗くなって部屋の明かりをつけると毎日下からよじ登ってきて狩りをする痩せガエルである。

その日、大きめの虫がジローのほうに向かうのが見えた。ジローはそろそろと近づき、気づかれない距離で止まったようだが、数センチまできたところで虫はピタッと足を止めた。両者にらみ合い。まさに食うか食われるかである。

ジローがついに動くかと思われた瞬間、虫は突如方向を変え、離れていった。ジローも諦めたのか、追いかけない。いつももっと近くまでおびき寄せ、長い舌をさっと出してしとめるのだ。距離があると手(舌)が出せないのかな、などと思いながら、いつの間にか握りしめていた拳をほどいた。