お店をやっていた頃は忙しくて大変なことばかりでしたけど、最後までずっと楽しかった。たくさんの方とお話しできましたからね。新しい土地で知らない人ばかりでも、知らないことがたくさんあっても、だから面白い、といつも思ってきました。そういう意味で、店は学びの場だったと思っています。

それに、いいお客様がいいお客様をどんどん連れてきてくださるものだから、驚くように人の輪が広がっていきました。最初の店の顧客には有名な代議士の方や俳優の方もいらして、靴を作らせていただいたものです。

人生になにか悔いはないかと聞かれれば、大人の事情で他県へ移り住んだことでしょうか。突然学校が変わることになり、特に娘たちには切ない思いをたくさんさせてしまいました。

夫には、いまさら言うことはありません。死んだ人になにか言っても仕方ないですし(笑)、いいところもたくさんあったから別れなかったんです。

もっと妻として尽くしたり、夫と腹を割って話し合ったりすればよかったのかもしれない、と思うこともあります。ついつい店のことに一所懸命になってしまったものだから、寂しい思いをさせたり、私にもたぶん悪いところはあったんだろうと思います。

とはいえ、あの人も「この女房なら、黙ってこの子を育てるだろう」と思って、突然息子を連れてきたんでしょう。いくら昔でも、そうそうある話じゃない。あの頃はずいぶん苦しみましたし、悩みもしましたね。いまの私だったら、同じことができるかわかりません。あれは、あのときの私だからできたことなんだと思います。

私はいまが一番幸せです。家族に対しても、お客様に対しても、ただ正直であれ、と生きてきました。それでこんなふうに編集部の方と楽しくおしゃべりもできて、私は本当に幸せだわ。