「地方移住ブーム」を疑い議論と検討を重ねるべき
私たちは、つい安易に「いま、地方移住がブームです」と言ってしまいます。雑誌の言説の分析から明らかな通り、日本では過去数十年にわたり地方移住がブームであると言われ続けてきました。
移住促進に取り組む際には、本当にいまブームなのか、エビデンスと解釈が多様な「ブームである」という言説や感覚を根拠にどこまで促進すべきなのか、常に議論と検討を重ねていくことが必要です。
これに対して、「移住ブームは良いことなのだから水を差すな!」という意見もあるかもしれません。ここで多面的な見方を示したのは、過去に不正確・不確実な地方移住ブームの到来を国が予測し、過剰な期待が外れたことがあるからです(注3)。
2007年前後の「団塊の世代の大量移住」がその一例です。「2007年前後に団塊の世代の大量移住が生じなかったのは、定年延長や移住促進策の失敗が原因」が通説でした。
しかし実態は、地方移住への関心は確かに高かったものの、むしろ「大量移住」という期待が過剰だったと考えられます。信頼性の低い一面的な調査結果や予測に基づく楽観的な議論が広がり、見かけ倒しの「ブーム」が生じたに過ぎなかったのです。
地方自治体の中にはこのときに移住促進施策を初めて実施したところも多くありましたが、期待とは異なる結果を受けて落胆したところもありました。限られた予算と時間と人員で取り組む事業だからこそ、「地方移住ブーム」に振り回されないことが重要なのです。
注3: 伊藤将人「なぜ団塊世代の地方移住は積極的に促進されたのか―国の研究会報告書における移住促進言説の正当化/正統化戦略に着目して―」『日本地域政策研究』2023、31: 40-49.
※本稿は、『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(学芸出版社)の一部を再編集したものです。
『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(著:伊藤将人/学芸出版社)
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