30年以上続く「地方移住がブームです」言説

異なる角度からも地方移住ブームを検証してみましょう。筆者が専門とする社会学には、“社会的な事象や出来事は、人々から独立して客観的に存在しているわけではなく、言語や表象によって媒介され構築されている”とする「構築主義」という考え方があります。

つまり、「地方移住がブームです」という言説自体が、地方移住ブームを構築している側面があるのではないか、ということです。

図表1などから、2010年代以降は地方移住への社会的な関心がとても高い時期であることがわかりました。それ以前は、図表1の通り地方移住と関連する記事数は相対的に少ない状況でした。ではその間、特に2000年代までは「いま、地方移住がブームです」といった言説は存在しなかったのでしょうか?

結論から言うと、そんなことはありませんでした。図表2は、1986年から2009年までの約20年間に、地方移住ブーム・人気を取り上げた雑誌記事の一部を整理したものです。1990年以降毎年のように地方移住や田舎暮らしがブーム・人気であると伝える記事が存在していたことがわかります。

<『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』より>

用いられるキーワードは「田舎暮らし」「移住」「脱東京」「移民族」「Iターン」など変化していますが、ニュアンスはほとんど同じです。「静かなブーム」「ひそかな人気」など程度を表す言葉とセットでブームや人気という言葉を使ってでも、記事にする商業的価値やニーズがあると判断されていたことがわかります。