企業による地方移住容認と促進の現れ

第二に、コロナ禍の特徴として挙げられるのが、大企業による地方移住促進や移住容認の拡大です。長年、移住促進をめぐっては仕事が最大の問題であると言われてきました。これは、自治体側だけでなく、移住を希望する人々にとっても同様です。

コロナ禍は東京一極集中のリスクを顕在化させると同時に、テレワークやリモートワークなど働き方の選択肢を拡大しました。その結果として、いくつもの大企業が従業員の地方移住を促す取り組みを始めたことは、大きな変化でした。

2021年、電気通信事業大手のNTTグループは、リモートワークを基本とした勤務形態を、国内で働く全グループ社員を対象に導入すること、加えてサテライトオフィスを全国260箇所以上整備することも発表しました(注2)。

同年、大手コンサルティングファームのEY新日本監査法人などのEYジャパングループは、所属部署の承認や目的の明確性を条件に、テレワークによる従業員の地方移住を支援する制度を導入しました(注3)。

さらに2022年、IT大手のヤフー株式会社は国内の従業員約8000人に対する居住地の制限を原則撤廃し、4月1日から国内ならどこでも居住可能にすると発表して、午前11時までに出社できる距離に居住という条件を撤廃しました(注4)。

こうした大企業の動きは、国内外のどこに住んでも仕事ができる人の増加に直接的に寄与すると同時に、大企業による率先した動きでテレワークやリモートワークに伴う地方移住という選択肢が広まる機運が醸成されました。

こうした動きは、過去に東京圏からの転出者数が増加した平成不況時や東日本大震災時にはみられなかったものであり、コロナ禍がもたらした新たな動向だと言えるでしょう。

ただし、現在、一時期のテレワークやリモートワークの解禁に伴う地方移住という選択肢は、ピーク時よりも狭まりつつあります。例えば、首都圏企業の直近1年間のテレワーク実施率は、2021年(令和3年)の36.2%から2023年(令和5年)には28.0%へと減少しています(注5)。

自治体は、テレワークやリモートワークによって働ける移住者へのアプローチと同時に、従来と同じく、地域内で働ける機会を創出するための事業者の誘致や支援に、引き続き力を入れていくことが重要でしょう。

注2: NTT「リモートワークを基本とする新たな働き方の導入について」2022、https://group.ntt/jp/newsrelease/2022/06/24/220624a.html.

注3: 日本経済新聞「EY ジャパン、従業員の地方移住で新制度」2021、https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ174930X10C21A2000000/

注4: ヤフー株式会社「ヤフー、通勤手段の制限を緩和し、居住地を全国に拡大できるなど、社員一人ひとりのニーズにあわせて働く場所や環境を選択できる 人事制度「どこでもオフィス」を拡充」2022年1月12日、https://about.yahoo.co.jp/pr/release/2022/01/12a/

注5: 国土交通省「令和5年度テレワーク人口実態調査」2024、 https://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/content/001735166.pdf.