都市周辺への移住の高まり

公正な移住促進のあり方を考える上で重要な、収入や職業に規定されるコロナ禍の社会階層と地方移住の関連性についてもみてみましょう。ここでは、地理学者の滕媛媛(とうえんえん)氏が、コロナ禍に東京都に居住する若者の移住意識に与えた影響を調査した結果に基づいて議論を進めます(注6)。

滕氏による調査の結果、ある傾向が明らかになりました。それは、コロナ禍において、高収入・正規雇用・テレワークが可能な人は移住意識が生じやすい一方で、低学歴・収入減少・不安感のある人も移住意識をもちやすい傾向にある、というものです。

この結果は、地方移住のある実態を示しています。それは、移住希望者の二極化傾向です。以降では、前者を「社会経済的安定層」、後者を「社会経済的不安定層」と呼ぶことにします。

滕氏の調査結果からは、コロナ禍において新たに地方移住意識が生じた若年層の人々には、2つの異なる動機づけ・メカニズムがあるといえます(図表2)。

<『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』より>

「社会経済的安定層」は、パンデミックにより可能となった新たなワークスタイルや、大都市の論理に消費されないオルタナティブなライフスタイル、自己実現の場を求めて移住意識を高めたと言えるでしょう。

同時に、社会経済的安定層は大都市、主に東京圏とつながり続けることで享受できる社会的、経済的メリットも大きいため、調査では都市圏への移住を志向する傾向がみられました。「コロナ禍の移住は、実は大都市圏周辺に人々が動いただけ」と言われるのは、こうした層の動きに起因すると考えられます。

注6: 滕媛媛「コロナ禍が東京都に居住する若年層の移住意識に与える影響」『季刊地理学』2021、73(4): 250-263.