社会経済的不安定層の移住意識

それに対して、「社会経済的不安定層」は、学歴に起因する雇用状況や働き方の不安定さ、収入が減少したことによる大都市での物価高や家賃高などによる金銭的厳しさ、これらに起因する不安や暮らしの不安定さによって移住意識を高めたと言えます。

コロナ禍に留まらず、今日の経済状況は社会的に弱い立場に置かれた人たちにとって、より厳しい状況となりつつあります。

例えば、筆者がコロナ禍に岩手県の自治体で地域おこし協力隊を対象に行なった調査(注7)では、収入が相対的にみて少ない隊員ほど、「協力隊制度が無ければ移住していなかった」と回答しています。

協力隊のような制度は、現在の日本社会において、地域協力活動に携わることで若年層の一定期間の暮らしと収入を確保する点で、移住政策や地域政策であるだけでなく、主に社会経済的不安定層の若年層を対象とした「福祉政策化」している側面もあるのです。

まとめると、移住者・移住希望者の社会経済的側面に焦点を当てると、コロナ禍に、その属性が二極化しつつあることが浮き彫りになり、かつその傾向が加速した可能性が浮かび上がります。

そして、地方移住への関心の高まりは一概に社会的に善い動向とは肯定できず、自己責任思考が高まる新自由主義社会において、社会的に弱い立場に置かれた人たちの生きるための消極的な選択肢にもなりつつあることがわかるのです。

このように、移住促進施策について議論する際には、経済状況や社会階層といった側面にも着目する必要があることを、コロナ禍はわたしたちに教えてくれたのです。

注7:伊藤将人「地域おこし協力隊制度の分析によるモビリティと政策の関連性の一考察─Kaufmannのモティリティ概念アクセス・スキル・認知的専有に着目して─」『一橋社会科学』2023、15:53-62.

※本稿は、『数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(学芸出版社)の一部を再編集したものです。


数字とファクトから読み解く 地方移住プロモーション』(著:伊藤将人/学芸出版社)

競争や流行にとらわれず、まちに本当に必要な“移住者”と出会うには?

「フェアで持続可能な移住促進はどうすれば可能か」という視点から、移住をめぐる研究結果や統計調査など様々な“ファクト”を豊富に紹介。

33のトピックに分け、課題や葛藤を乗り越えるための考え方やアイディアを提示します。