大胆な移住支援金の歴史は1990年代にさかのぼる
そもそも、国や地方自治体による移住促進のための大胆な金銭的支援は、いまに始まったことではありません。
1990年代、バブル経済の崩壊後も比較的好景気にあった地方自治体では、地方分権の下、他自治体と差別化を図り、個性的な地域づくりを行なうために様々な施策が展開されました。その中の1つのパターンとして拡大したのが、大胆な金銭的支援です。
当時、注目を集めた自治体に兵庫県三日月町があります。三日月町は、1991年に策定した若者定住条例に基づき、移住奨励金を設置しました。
奨励金の対象は36歳までの男女で、5年以上住む場合には無条件で8万円、結婚したらプラス8万円、子どもが生まれたら第二子まで各8万円で、3人目には30万円、4人目には40万円、さらに農林業に専業従事した場合は年に100万円を3年間にわたり支給、農林業関連で研究旅行する際には50万円、家を新築・購入した際には50万円補助と、総計400万円の支給を目玉に移住定住促進を展開しました(注2)。
その他、直接的な金銭的支援ではないものの、市町村独自の特産品や商品を安くもしくは無料で提供する施策がこぞって展開されました。図表2は1990年代に雑誌に掲載された移住促進のための金銭的支援の紹介誌面ですが、数十万円から高いものでは1000万円までさまざまな支援金の情報が並んでいます。
移住促進や、それと関連した金銭的支援は日本国内だけの動向ではありません。ヨーロッパの一部の国々では町村による金銭的支援が展開されており、アイルランドやイタリア、スペインの政府や自治体が、移住促進や空き家を購入して移住する人向けの補助金を支給しています(注3)。
注2: 週刊読売、1991年4月14月号
注3: Peter Matanle「Japan is paying families 1 million yen to move to the countryside - but it won’t make Tokyo any smaller」2023、https://theconversation.com/japan-is-paying-families-1-million-yen-to-move-to-the-countryside-but-it-wont-make-tokyo-any-smaller-1975