江戸の風俗(写真提供:Photo AC)

2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。横浜流星さん演じる主人公・蔦屋重三郎は、江戸の出版プロデューサー。敏腕編集者でもあった蔦重が見抜いて手掛けた、浮世絵、出版、芝居、グルメ、ファッションは次々と江戸の流行となりました。そんな「江戸のメディア王」が躍動した時代の本当の楽しみ方を、『蔦屋重三郎と江戸の風俗』より一部を抜粋して紹介します。

幕府の統制・弾圧と戦い続けた蔦重

蔦重は、出版業界で大成功をおさめたわけですが、好事魔多し、出版活動の後半の10年余りは、苦難の連続でした。

幕府の統制・弾圧と戦い続けることになったのです。

そのはじまりは1786年、田沼意次が失脚し、松平定信が実権を握ったことです。そもそも、華やかな田沼時代には、暗黒面もありました。

賄賂政治が横行し、田沼自身も賄賂政治の張本人として批判を浴びました。さらに、田沼は、浅間山の噴火による天明の飢饉の対応に失敗し、一揆や打ちこわしが頻発します。

そして1786年、田沼を重用していた10代将軍家治(いえはる)が没すると、田沼は老中を罷免され、約20年間続いた「田沼時代」は終わりのときを迎えたのです。

次いで、幕政の実権を握ったのは、松平定信でした。定信は、白河藩の藩主で、8代将軍吉宗の孫。

早々に養子に出ていなければ、将軍になっていてもおかしくない人物でした。彼の基本政策は、田沼の重商主義的な政策を、祖父吉宗の重農主義路線に戻すことでした。