一流の芸術家達の作品を出版できた理由

ところが、その常識を超えたことを重三郎はやってのけているのである。

ではどのようにして彼は、喜三二や重政、春章らと知り合い、彼らの作品を出版することができたのだろうか。

『新版 蔦屋重三郎 江戸芸術の演出者』(著:松木寛/講談社)

結論から言うと、重三郎は、“吉原”と吉原細見の販売所という地位を巧みに利用したのではないのだろうか。

この時代の吉原は、単なる遊廓だけの機能にとどまらず、文人や絵師をはじめとする名士達が集まり交際をする社交場としての役割をも有していた。

当然そこには喜三二や重政、春章らも出入りをする。そうすると鱗形屋版の吉原細見の序文や口絵を描いた彼らは、ついでもあって細見の販売所である蔦屋の店にも立ち寄り、主人の重三郎と挨拶を交わしたり話をしたりすることになる。