最初期の蔦屋版の名作

最初期の蔦屋版の出版物のうちでも名作の呼び声の高いのが、勝川春章と北尾重政が合作した俳諧絵本『青楼美人合姿鏡』である。

吉原の遊女の姿絵を多色摺で描いたこの本は、蔦屋と本石町の版元山崎(屋)金兵衛との合版(共同出版)となっているが、『割印帳(わりいんちょう)』に「耕書堂作 板元売出 山崎金兵衛」とある点からして、資金は山崎金兵衛が出し、重三郎は企画と重政・春章への交渉を担当したのではないかと考えられる。

安永5年の時点で、重三郎にはこれだけの豪華な絵本を出版する資金を融通する力はまだなかったものとみえる。

※本稿は、『新版 蔦屋重三郎 江戸芸術の演出者』(講談社)の一部を再編集したものです。


新版 蔦屋重三郎 江戸芸術の演出者』(著:松木寛/講談社)

2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』の主人公、蔦屋重三郎とは何者か?

作家、画家、版元仲間などのさまざまの人間模様を描き出し、この時期の文芸の展開を社会史的に捉えた意欲作にして、必読の定番書。