これまで芸人として、「面白ければすべてよし!」というテレビ業界で生きてきました。特にバラエティが強い時代で、面白いことは何よりも偉いと思っていたから、「面白くない」と言われることがすごく怖かった。

だけどカナダに来てから、人の魅力はそれだけじゃないと気づくことができました。バラエティで言う「面白い」は、さまざまな種類の面白さのほんの数パーセントでしかなくて、日々の暮らしにもたくさんの「面白い」がある。一般の人たちだってとても面白いんですよ。

カナダに住んでいる日本人とも仲良くなったのですが、なかなか強く大らかに生きていて尊敬します。例えば、友人の旦那さんはある日突然仕事を辞めちゃって、もう10年も働いてないとか(笑)。

ええ! って驚いてしまいますが、健やかにニコニコ生きてるからね、その旦那は。友人はそのぶん私が働けばいいってバリバリ働き、休日はしっかり趣味に時間を使って。そしてよく笑っています。かっこいいです。

私がタレントをやっていたと言うと、ホストマザーのグレンダが「ほかは?」と聞くんです。「いや、タレントだけをやっていた」と言うと、びっくりされます。彼女は「人生、4職から5職ぐらいかな」と言っていました。

私は、30年同じ職を続けた人にカナダでまだ出会ったことがありません(笑)。日本ではひとつのことを極めるのが素晴らしいとされていますが、ひとつ失敗したからって、それは罪でもなんでもないんですよね。

たまに帰国するとテレビに出させてもらうことがありますが、芸人さんはすごいな、みんな面白いなと、今では俯瞰できるようになりました。以前は、「もっと笑いを取らないと」「私の出演時間がほかの人に比べて少ないかも」と焦りがあったけれど、今はそういうことを気にしなくなりました。

テレビで格好つけて面白い人のふりをしてもしょうがない、無理をした姿は面白くなるわけないと思えるようになり、現場を楽しんでいます。

後編につづく