新生児をパンのバスケットに寝かせて
助産師の仕事としては、初めて乗船したときに男の子の赤ちゃんを取り上げました。あいにく、その日は天候が悪くて海は大荒れ。
船内がグラグラ揺れる中、床に敷いたヨガマットの上で分娩という過酷な状況で陣痛がスムーズに進まず、ようやく赤ちゃんが産まれたと思ったら、お母さんは疲れ果てて爆睡してしまった。
添い寝していた赤ちゃんが船の揺れでどこかに転がってしまっては一大事と、ベビーベッドの代わりに、朝食のパンを入れるバスケットに赤ちゃんを寝かせました。
日本の病院だったら、「不衛生」「何かあったら誰の責任?」と、絶対に許可されない話です。でも、そんな悠長なことを言っているヒマはないので(笑)、船上ではすべてが助産師の判断に任されます。
分娩も中絶も、危険な状態に陥った母体を緊急ヘリで輸送するのも、すべて私の判断で。言い換えれば、船上では自分が持っている力をフルに発揮できる。
日本で助産師として働くのは私じゃなくてもできるけど、ここには「私じゃなきゃできない仕事」がたくさんある。だからこそ、どんなに大変な場面に遭遇しても、「また船に乗りたい」と思うのでしょう。