誰もいないところに自分の旗を立てよ

振り返ってみれば、私の人生はずっと「少数派」を目指してきたのだと思います。看護師でなく助産師になったのも、助産師の人数が看護師の10分の1というのがそもそもの理由です。

都内の公立中学を卒業後にオーストラリアに留学したのも、勉強するのが好きじゃなかったので、大勢の人と争って高校受験を勝ち抜くというレースから逃げたかったのだと思います。

そして今、地中海の捜索救助船で働いている日本人助産師は私だけ。「唯一の日本人助産師」として目立とうと思っているわけではありません。

捜索救助船の前に立つ、後ろ姿の小島さん
ライフジャケット、ヘルメットに安全靴。助産師とは思えないいでたちで、毎回、難民救助にあたっている。©SOS Méditerranée

船上は、幼い頃から人と競争することが苦手だった私が自信を持って働くことが出来る場所なのです。日本にいると、つい人と自分を比べてしまうけど、私にとって自信が生まれるのは人より優れたときではなく、人と比べる必要がない環境に置かれたときなのです。

「誰かの真似をして同じ場所に行くのではなく、誰もいないところに自分の旗を立てよ」 いつ、どこで聞いたのか忘れてしまったけれど、この言葉がずっと心に焼きついています。人が少ないところ、少ないところを探して、ブルーオーシャンを目指して生きてきたら、本当の海にたどり着いてしまった。(笑)

私が携わっている活動は「かわいそうな人を助けて偉い」という単純な話ではありません。救助した人たちがヨーロッパのどこかの国の港に降りても、彼らが望んだようないい暮らしができるケースは稀ですし、難民申請が認められずに本国に強制送還されてしまう人も少なくありません。

捜索救助船の母子シェルターの前で写る小島さん
捜索救助船の母子シェルターの前で。助産師になってから、小島さんが6歳のときに亡くなった曾祖母も実は助産婦だったと知った。©SOS Méditerranée

この活動を通じて、世界の矛盾を思い知らされているのも事実です。それでも、気がつくと、私はまた船に戻っています。体力が必要な仕事なのでいつまでできるかわかりませんが、「頑張ってよかった」と思える日まで、この活動を続けていきたいと思っています。