発言の真相

そして、その「総論としては多くの人が賛成するであろう」発言の中の「各論」的な具体策として、成田氏が「集団自決」問題で具体的にどの程度のことを念頭に置いていたかというと、ある程度踏み込んだ例としては、多くの国で行われている実例として、以下のようなものがあると試案を述べています。

(筆者による要約)
多くの国では、自力で食べ物を飲み込むことができなくなるなど、移動・排泄・食事・入浴などの日常生活動作のレベルが一定以下になった場合、大枠でいえば徐々に公的医療保険の適用を弱め公的介護保険に移行することで公的負担を抑えている。自費で延命することはできるとしても、子どもや未来への投資を削ってでも一定以上の延命を公的に促すことには慎重になろうという趣旨で、日本でもそういう発想は必要なのではないか?

この部分については、意見が割れるとは思います。特に、自費と公費で“命の格差”が生まれることへの抵抗感が日本では根強いことは理解できます。私も拙速な導入には反対したい気持ちがある。

ただし、前記の要約部分で成田氏も言っているように、「この程度のことは欧米含めどの国でもやっている」んですよね。米国は言うまでもなく北欧などでもかなりドライな運用がなされていることは有名ですよね。

ここで、

〈いや、大変なコストなのはわかっているし、欧米でもやらないことなのはわかっているが、それでも日本は社会の意志としてこれをやるという決断をするのだ。「命に差をつけてはいけない」という強い意志を見せるのだ〉

……という意思決定をするならわかります。それはそれで一つの選択だなと思う。

しかし、そもそも成田氏の発言を見れば「せめて欧米なみの制度にダウングレードできないか」程度の話しかしていないことがわかるはずですが、

〈長年の自民党支配が続いてきたことでここまで日本社会は破壊されてしまったのかと暗澹(あんたん)とした。非人間性の極みのような人間に唖然とする。彼ら支配層はただただ、私たち市民を搾取する自分たちの権力の維持だけにしか興味がないってことがこの一件からですら一目瞭然なのである〉

〈人権の大切さを理解しない未開国家ではこんな成田みたいな“ナチスと同罪”レベルの人間がでかい顔をしてのさばってるんだ。あーあ、日本ってほんと、人間の尊厳を理解する高潔な人間には生きづらい社会で実に実に嫌になりますよねえ〉

……みたいな話がSNSには溢れかえっており、そもそも現状認識からして全くズレていることがわかります。

※本稿は、『論破という病-「分断の時代」の日本人の使命』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


論破という病-「分断の時代」の日本人の使命』(著:倉本圭造/中央公論新社)

堀江貴文氏失脚に象徴的な日本の「改革」失敗の本質的な理由や、日本アニメの海外人気が示唆するもの……。

「グローバル」を目指して分断が深まった欧米とは異なる、日本ならではの勝ち筋を見つけ、この20年の停滞を乗り越える方策を提示する。