人間の欲「煩悩」(写真:stock.adobe.com)

面倒ごとの9割は、人生で身に着てきた「こだわり=執着」のしわざと説くのは、真言宗密蔵院住職の名取芳彦さん。心おだやかでいられる時間と事を増やすには、「執着じまい」「こだわりじまい」「面倒なことじまい」が必要だといいます。執着の手放し方について説いた『60歳を過ぎたら面倒ごとの9割は手放す 我慢してばかりの人生から自由になる54の教え』より一部を抜粋して紹介します。

私たちはみんな、裸一貫で生まれてきます

はじめまして、真言宗密蔵院(みつぞういん)住職の名取芳彦(なとりほうげん)と申します。

近年、「**じまい」という言葉をよく耳にするようになりました。私たちはみんな、裸一貫で生まれてきます。

そのとき、あなたはオギャーと泣き、周りは笑顔になりました。あなたが持っていたのは、命と、生きようとする力だけです。

しかし、成長するにしたがって、よりよい暮らしを求めるようになります。そのために、さまざまなものを集め、蓄えます。

豊かな暮らしを実現させるために、着るものや家具、食器、貯金を増やします。生活の土台になる家や仕事、運転免許なども必要です。

豊かさの次は、楽で便利な暮らしを求めて、テレビやスマートフォンなどの家電、健康を維持するための健康器具、若さを保つための美容器具などもそろえます。

暮らしの向上だけではありません。よりよく、より豊かに生きるために、さらに多くのことを身につけます。

良好な人間関係を保つために、お中元やお歳暮、年賀状などの季節の挨拶も欠かしません。

上手に生きていくには世間体も大切なので、いい人になろうとしたり、謙虚でいようとしたり、あるいは、他と比較して自分の立ち位置を確認する作業も怠りません。

我慢することを覚える一方で、損得で物事を考えたり、見返りを求めたりして、自分だけ損をしないように注意します。

このようにしてあなたは、物心両面で多くのものを手にしてきました。裸一貫で生まれたあなたが、成長するにしたがい、身と心にさまざまな装備品をまとってきたと申しあげてもいいでしょう。