マンション空き住戸は何が問題なのか

まずマンションは一体の建物に多くの住戸が連結されています。住戸同士は鉄筋コンクリートの壁またはボードで仕切られていますが、各種配管はつながっています。

たとえば、排水管のバキューム清掃。築年数が進むとどうしても配管に詰まりが発生しやすくなります。

そこで全住戸一斉(いっせい)にバキュームすることで排水の流れをよくするのですが、空き住戸の所有者が協力してくれないと、その住戸部分のバキュームが完了しません。結果としてマンション内の排水管全体の流れをよくする目的が達せないこととなります。

防災面で重要なのは火災報知器など消防設備の点検です。法定で年に1回の実施が義務づけられていますが、所有者不在が続くと適切な点検ができません。万が一、空き住戸内などで火災が発生しても消火設備が作動しないと、被害が大きくなってしまいます。

また長い間、空き住戸のまま放置していることで、水道蛇口(じゃぐち)やパイプの劣化などが起こり、水漏れなどが発生して階下(かいか)住戸へ漏水する、ベランダに鳩などが巣を作り、フンや羽根が散乱するなどの環境悪化を引き起こします。

さらにベランダに荷物を放置しているような場合には、非常時の避難路としてのマンションベランダの避難用ハッチを塞いでしまうなど防災面でも大きな影響をおよぼします。

空き住戸状態のまま放置している所有者のなかには、管理費や修繕積立金の滞納を繰り返している者も多いです。

マンション内に空き住戸が増えると十分な管理費用が得られず、マンション管理会社との契約に支障を来(きた)す、修繕積立金の積み立て不足は必要な時期に適切な工事が行なえなくなるなど、マンション全体の資産価値の維持、向上に大きな制約を与えてしまいます。

このようにマンションは共同住宅であるがゆえに、自分がしっかりしていても、同じマンションに住む他人の身勝手な行動に翻弄(ほんろう)される住宅でもあるのです。そうした意味では所有者自身で対策を講じることができる戸建て住宅の空き家よりも、実は厄介な存在なのです。

※本稿は、『新・空き家問題――2030年に向けての大変化』(祥伝社)の一部を再編集したものです。


新・空き家問題――2030年に向けての大変化』(著:牧野知弘/祥伝社)

今後、首都圏に大量相続時代が到来し、さらなる空き家の増加が予想されている。

どうすれば空き家を減らせるのか。空き家になったらどう対処するのか。

空き家を通して、日本社会の「現状」と「近未来」を読み解く。