幸・不幸/決められるのは/貴女だけ

大往生をしたいと思うのに、大往生ができない人――。

その原因は、自分の「心理」にあることが多いのです。

例えば、疑い深い人は、好きな相手ができても「こんなおばあちゃんを好きになるはずがない。お金目当てなんだろうな」などと思ってしまいます。

嫉妬心が強い人もそう。「お友だちの家には孫がしょっちゅう来るのに、うちには全然。きっと私は嫌われてるんだ」などと考えがちです。

自分の人生を、自分で寂しくしてしまっているわけです。

ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマンは、次のように言っています。「人間の幸せは参照点で決まる」と。

参照点というのは、人が何を基準に「幸せ・不幸せ」を判断するか、という点のことです。

例えば、100億円を持ってる人は「100億円」が参照点になるので、1万円でも損したら不幸な気持ちになります。

ところが、1万円しか持っていない人は100円を拾っただけでも、めちゃくちゃ幸せな気分になります。

つまり「参照点より上か下かで幸せが決まる」と、カーネマンさんは言っているのです。幸齢の方にこの理論を当てはめると「ああ確かに」と、納得できます。

例えば、大企業の社長だった人が、入居金3億円、月額50万円の豪華な老人ホームに入りました。でも、文句ばかり言っています。

「なんだ、この狭い部屋は。社長時代はいつも料亭で食事してたのに。スタッフも俺を老人扱いしやがって」と。社長時代の生活が参照点になっているので、不幸に思ってしまうのです。

ところが、お金の苦労をし、満足な生活ができなかった人は、特別養護老人ホームに入っても幸せを感じます。

「3品もおかずがつくのよ。温かいベッドで眠れて、スタッフの人も話を聞いてくれるの。こんな幸せになっていいのかしらね」と。幸・不幸は、自分の考え方次第なのです。

参照点が高ければ、どんなに幸せな状況でも「不幸せ」と感じます。反対に、参照点が低ければ、世間的には不幸と見なされる状況でも「幸せ」と感じるのです。

女80歳の壁』(著:和田秀樹/幻冬舎)