人生の楽しさとは

96年にキューバでショーをしたときも、「怖いところじゃないんですか?」とか「社会主義国でショーをやる意味ってなんでしょう」などと言われたものです。当時、キューバに関してはアメリカ経由の情報が多かったため、ネガティブなイメージを持っている人もいたのかもしれません。

でも私は思い込みや先入観を取っ払い、わくわくする、という理由でショーの計画を立てました。

野外でのショーなのに、準備期間は連日豪雨でどうなることかと心配もしましたが、当日は雲一つない晴天となりました。キューバの人は親切でノリがいいし、音楽も素晴らしい。バネでできているかのように柔軟な身体のモデルたちがキューバ音楽のリズムに合わせて躍動的に動いてくれて、エネルギッシュで楽しい、素敵なショーになりました。

同じようにベトナムやミャンマーなど、それまでファッション市場とは縁遠かった国でも、ご縁があってショーを行ってきました。

そういう催しに慣れていない国ではトラブルも起きがちですし、行ってみて初めて目の当たりにする困難もたくさんあります。ミャンマーではショーの最中に停電になり慌てました。でも現地の人と一緒に工夫してなんとか実現させると、なんとも言えない満足感があり、大変なことも、後になったら楽しい思い出になります。

私はなんでも、「やってみなくてはわからない」「行ってみなくてはわからない」と思っています。人とも、話してみなければなにもわかりません。まっさらな気持ちで物事に向かうと、思いがけない出会いがありますし、それが人生の楽しさではないでしょうか。

 

※本稿は、『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』(著:コシノヒロコ、コシノジュンコ、コシノミチコ/中央公論新社)

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「コンプレックスは武器になる」コシノヒロコ
「一番若いのは『今』」    コシノジュンコ
「大切なのは自分を信じる力」 コシノミチコ

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