コシノミチコ
コシノミチコさん(撮影:下村一喜/『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』より)
大阪・岸和田のコシノ洋装店に生まれたコシノヒロコさん、コシノジュンコさん、コシノミチコさんの三姉妹は、50年以上ファッション業界で世界的な活躍をしています。そんな三姉妹の初の共著『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』が、2025年1月10日に刊行されました。そのなかから、三者三様の人生哲学の一部をお届けします。5月23日からは、連続テレビ小説『カーネーション』のモデルになった母・小篠綾子さんとコシノ三姉妹の人生を描いた映画『ゴッドマザー コシノアヤコの生涯』も公開され、ますます目が離せない姉妹です。

英国ファッション協会に加盟

「だんない」は、岸和田弁で「大丈夫」の意味。なにか困難があっても、イヤなことがあっても、私はいつも「だんない、だんない」と思ってきました。

外国人、それもアジア人ということでの差別はいくらでもあることなので、「だんない」と思って気にしないに限ります。気にしたところで疲れるだけですから。そして私は、そこからもう一歩先に行く。学生時代は勝ち負けの世界で生きてきましたから、「絶対、負けへんで」と気合いを入れるんです。

負けていないことを示すためにも、私は絶対に英国ファッション協会(British Fashion Council)に加盟してみせると目標を立てました。英国ファッション協会は、世界に向けてイギリスのファッションを発信するための団体で、年に2回、ロンドン・コレクションも開催しています。

加盟しているのは、たとえばバーバリーなどイギリスで名高いブランドだけ。イギリスのデザイナーにとってもハードルが高い団体なので、普通だったら日本人の私が入れるはずがない。でも私は、絶対ここに加盟しようと目標を立てたのです。

そのために必要なのが「世の中にないものを作る」だったし、それをヒットさせることでした。幸い次々と新しいものを発表でき、イタリアなど海外でも高い評価が得られたので、その成果が認められて87年に英国ファッション協会に加盟できました。

ロンドンで初めてパターンを作る仕事をしたとき、できるかどうかわからないけれど、「2週間で20体」と高いところに目標を置きました。そうやってまず、実力より少し高めの目標を作り、辿り着くように頑張る。それが私のやり方だし、パワーの源です。

たぶんそうしたやり方は、テニスを続けるなかで身につけたんだと思います。絶対に日本一になってみせると、ちょっと無謀な目標を立てて、そこに向かっていきましたから(編集部注:ミチコさんは短大時代に軟式テニスの全日本学生選手権大会のダブルスで優勝)。

すると目標に辿り着くために、練習法や試合の戦略、手強い相手の攻略法をものすごく考えるし、「やったるで!」と元気も出ます。その精神を持ち続けたからこそ、この歳までイギリスを拠点にデザイナーを続けていられるのだと思います。