愛の力は偉大
三四郎が道で小枝を食べそうになることもあり、ぼくは彼の口の中に手を入れて、それを取り出すし、三四郎の歯のチェックもするし、三四郎の唾液など、水道水くらいにしか思わなくなってしまった。
愛の力は偉大である。
三四郎のおちんちんもお尻の穴も毎回、綺麗に拭いているし、まるで自分の身体の一部のようになってしまった。
三四郎がやって来る前までのぼくとは別人になってしまったのだ。ということで超神経質なぼくは次第にこの子犬を通して、今まで絶対に受け入れることの出来なかったちょっと汚い世界までをも受け入れることが出来るようになったのである。
あはは、どこの王子?? というか、超神経質だったぼくだけど、三四郎のおかげで普通になってきたというか、そこまで神経質に消毒しないでもいいかな、と思うようにもなった。
もちろん、外出から戻ると神経質に手洗いはやっているし、部屋の掃除も頑張っているけど、多少のことは大目に見ることが出来るようになったのである。
今日も朝、三四郎のうんちをつかんで、硬さのチェックをし、「いいうんちだねー」と三四郎を褒めてやった父ちゃん。尻尾をふって喜んでいる三四郎は、可愛い。
こういうことも犬を飼う上で、とっても大切なことなのである。
※本稿は、『犬と生きる』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
『犬と生きる』(著:辻仁成/マガジンハウス)
パリ在住の芥川賞作家が描く愛犬・三四郎との日々。
『パリの空の下で、息子とぼくの3000日』のその後の物語。