品性は失ってはならない
人間が歩み出す道程に、ラクな道はひとつもない。
こう言えば、「そんなに人生は大変なの? じゃ嫌だネ」と平然と若い人は言う。若い時に成功してラクな暮らしをしている人もたしかにいるが、そんな輩の生涯などツマラナイし、クダラナイのは目に見えている。
では苦労した人が必ず好運を得るかと言えば、そんなことはない。ここに人生の不平等と運命の厄介さがある。
しかしそれでも、ラクしたい、とそれしか発想がない者は間違いなく、崩れて行く。
少し厳しいことばかりを書き連ねているが、ラクしたい! 金が欲しい! という願いは、人間の中で、もっとも品性に欠けている者の発想であることは間違いない。
品性があれば、ラクもできるか? 決してそんなことはない。むしろ苦しい辛いことのほうが多いだろう。それでも品性は失ってはならないのである。
※本稿は、『またどこかで 大人の流儀12』(講談社)の一部を再編集したものです。
『またどこかで 大人の流儀12』(著:伊集院静/講談社)
国民的ベストセラー「大人の流儀」シリーズ最終巻。
伊集院があなたに贈る最後の言葉――数えきれない出逢いと別れを経験してきた作家が死の直前まで書き綴ったラストメッセージ。