2023年11月24日に永眠された、作家・伊集院静さん。『機関車先生』『受け月』など数々の名小説を残し、『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』を手掛けるなど作詞家としても活躍したほか、大人としての生き方を指南する連載エッセイ「大人の流儀」シリーズでも人気を博しました。今回は、そのシリーズ最終巻『またどこかで 大人の流儀12』から、伊集院さんのメッセージを一部お届けします。
ラクな道はない
雑誌で悩み相談のコーナーを10年以上引き受けていて、1年の約束ではじめたものが延々と延び、今に至っている。
自分が人より何倍も悩んで来たのだから、他人の相談なんぞ聞けるか、相手にできるわけがない、と始めたが、世間は案外と、こんなくだらないことで悩んでいるのか、と驚いた。
同時に、クダラナイ相談に乗っているうちに、怒り心頭になり、素直に、バカモンと怒鳴ったことが逆に読者にウケて、その調子でいいから続けて下さい、となり、なんとも奇妙な感情で今に至っている。
つい最近の相談事に、80歳を越えた老人からのものがあった。正月に孫娘が挨拶に来て、お年玉を渡すと、「このお金を投資に回すわ」と堂々と言ってのけたらしい。祖父は自分の人生をかえりみて苦労した日々と、今、孫娘が投資で金を儲けようとする近況を嘆き、どうしたらいいのかと言ってきた。
私は、断然、孫娘の考えが間違っているし、今日の世間の考え、投資をすることが当たり前だという風潮は間違っていると言った。